MARKETING MAGAZINE

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INTERVIEW

2020.06.05

持続可能な取り組みでお客様に「あたらしい幸せ」を提供

ーー 近年、国連が定めた持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」に取り組む企業が増えています。中日新聞にご出稿いただいた貴社の2020年正月用広告もSDGsを踏まえた内容となっていたのが印象的でした。まずは、貴社がSDGsを重視するに至った経緯をお聞かせください。

小山 ご存じのように大丸と松坂屋は2007年9月に経営統合しました。もともと大丸は300年以上の歴史のなかで「先義後利」という社是を大切にしてきましたし、松坂屋は400年以上という長い歴史のなかで、「諸悪莫作、衆善奉行」という社訓を掲げてきました。利益を求める前にまずは善い行いをすることで事業を持続させてきた私どもの姿勢を、よりわかりやすく発信するために、「くらしの『あたらしい幸せ』を発明する。」というグループビジョンを2017年に策定しました。SDGsを重視する大前提がこのグループビジョンです。

松坂屋名古屋店が掲げるSDGsのための5つの取り組み。各項目の具体的な取り組みは、特設サイト「松坂屋名古屋店のサステナビリティ」で確認できる。

ーー その「あたらしい幸せ」の基盤として、持続可能な社会に結びつくのですね。

小山 その通りです。百貨店というのは、お客様と触れ合うことのできる場です。多様な人が集まり出会いが生まれることで、地域の共生や活性化といったことにもつながっていきます。そうした「場」を持っている私どもが、「人びとと共に、地球と共に、環境と共に」をキーワードに、百貨店ならではの社会貢献を考えていこうというのが、SDGsに対する基本的なスタンスです。

ーー そうしたスタンスのもと、具体的な取り組みとして、「地域社会との共生」「サプライチェーン全体のマネジメント」「低炭素社会への貢献」「ワーク・ライフ・バランスの実現」「ダイバーシティの推進」という5つを掲げておられます。正月広告でもこれらの具体的な事例について発信されていましたね。

小山 実はこれまでも散発的にはさまざまな取り組みをしてきたのですが、改めて5つのマテリアリティに整理をしたうえできちんと発信していこうということになりました。例えば、「サプライチェーン全体のマネジメント」では、不要になった衣料品、靴、バッグなどをショッピングサポートチケットに引き換える「ECOFF リサイクルキャンペーン」を実施しましたが、これは弊社の独断でできることではなく、テナントも含めたサプライチェーン全体の理解と協力が不可欠です。また、「ダイバーシティの推進」では、ベビーカーや車イスに配慮した取り組みのほか、社内的には女性管理職の割合を向上させるなど、多様性を重視する姿勢を打ち出しています。

2020年1月1日の広告は、従来メインだったクリアランス情報は左下のワンコーナーのみで、SDGsの取り組みを前面に押し出した。メインキャラクターの「さくらパンダ」は小山さん自ら誕生に携わった。

ーー 百貨店は地域密着という面があるので、5つのなかでも来店されるお客様に取り組みがわかりやすいのは「地域社会との共生」だと思います。具体的にどのようなことに取り組んでいらっしゃいますか。

小山 一口に「地域社会との共生」といっても、文化、産業、教育、芸術といったさまざまな分野があります。例えば、「ドリームレッスンプログラム」という企画では、スポーツやアートなど、各分野の第一人者や専門家がレッスンを行い、お子様が夢を実現するきっかけづくりのお手伝いをしています。お子様の才能の開花を喜ぶ親御さんから高い支持をいただいていますね。また、松坂屋名古屋店が店を構える栄エリアの活性化を応援する取り組みとしては、栄に事業所を持つ施設による共同販促プロモーション「サカエゴーラウンド」があります。名古屋大学と包括連携協定を結び、ICTを活用しながらオープンイノベーションを目指すこの取り組みは、シェアオフィスを活用したセミナーなど、新しいビジネスを生む土壌づくりにも役立っています。

2019年11月30日から12月25日まで開催された「サカエゴーラウンドクリスマス2019」では、クリスマスワークショップやスタンプラリー、フォトコンテストなどのコラボイベントが実施された。

ーー 地域の活性化という観点では、2020年秋、2024年と、栄エリアで新しい商業施設をオープンする計画があると聞いています。今後、栄エリアの開発や活性化について、どのようなビジョンをお持ちでしょうか

小山 名古屋で再開発といえば、名古屋駅周辺が注目されていますが、名古屋駅エリアは新幹線で他都市とも直結していまし、効率性を重視した街になっていくのだろうと考えています。一方、栄は、「時間消費型」といいますか、もっとゆっくりと過ごせる街になればいいと思います。私どもも街とともに成長し、名古屋オリジナルの文化が息づく、名古屋の人が自慢できるような街になれば、栄の活性化もさらに進んでいくのではないでしょうか。こうして人や文化や暮らしをつなげていくことが、持続可能な社会だと思いますし、松坂屋の原点でもあります。

「ECO」と環境負荷を低減する「OFF」を合わせて命名された「ECOFF」は、持続可能な参加型リサイクルプロジェクト。他に、器の修繕相談に応じる「金継ぎお直し相談会」や、家具類のリペアサービスなども展開している。

ーー 新しい商業施設も含め、栄の活性化に期待しております。「時間消費型」というお話は、じっくり読んでいただく新聞にも通じる話だと思います。最後に新聞に対してご意見、ご要望があればぜひお話しください。

小山 「時間消費型」という点ではたしかに共通項がありますね。私は、新聞の強みは、きちんと編集されていることだと考えています。世間を騒がせる事件もあれば地域のニッチな情報もありますが、ネットニュースのように並列に流れていくのではなく、しっかり裏を取ったうえで強弱がついているので、そこが各新聞社の特色や強みになっているのだと思います。世の中がこれだけ変化しているなか、その変化を伝えるという意味でも新聞の役割は大きいので、これからも期待しています。

ーー 新聞のあり方を考えるうえでも参考になるご意見をいただきました。貴重なお話をありがとうございます。

ライフ・ワーク・バランスの一環として、バックヤードオフィスも働きやすさを重視。一部を除いてフリーアドレスを採用し業務効率化を図ったほか、リラックスできる座敷スペースも設置されている。