MARKETING MAGAZINE
マーケティングマガジン
東海エリア探訪記
2019.12.24
ウミガメと地球温暖化
[ 三重県 紀宝町 ]
動物園や水族館の飼育員になりたい。子どものころ、だれもが一度は考えることかもしれない。小学校の生き物係はみんながやりたがり、ジャンケンで決めることも多いだろう。熊本出身の一野愛美さんは水族館で働きたいとの夢を追って大阪の専門学校で学んだのち、1990年に発足したNPO日本ウミガメ協議会で働きはじめる。
「生き物を尊重しているようなところで働きたいと思っていました。その点、保護よりも研究を重視している組織なので、自分に合っていると思いました。なぜ減っているかわからなければ保護もできないからです」
と一野さんは就職の動機を語る。いまどきの就活では、会社もNPOも同じ選択肢に入るのだという。派遣されるかたちで、まず高知県のむろと廃校水族館のオープニングスタッフとして働いた。そこで生き物を人に見せるにはたくさんの勉強が必要で、苦労がたえないのを思い知らされる。学校で学んだことも、図鑑で見たこともない珍しい生き物を地元の漁師が持ち込むたび、責任が重くのしかかった。海のことでわかっているのはほんの少し、せいぜい3%程度にすぎないではないかと痛感させられた。
次いで道の駅「紀宝町ウミガメ公園」に附設するウミガメハウスの飼育員となった。2006年にウミガメ保護条例を施行した紀宝町では、将来に渡って共有の資産として継承する努力を重ねてきたが、本施設はその一環になる。2018年7月末に配属になったその日の夜、施設の前に広がる砂浜にウミガメが上陸し、産卵した。かつては20~30頭は見られたが、近年はずいぶん減って、その年はそれが唯一の機会だった。ウミガメは夜に浜で産卵する。21時から22時ごろのこともあれば、夜中の2時、3時のこともある。孵化までおよそ2カ月かかるが、残念ながらその卵はかえらなかった。
日本沿岸にはアオウミガメ、アカウミガメ、タイマイの3種類がいる。このうち紀宝町の浜で産卵するのはアカウミガメで、アオウミガメとタイマイは沿岸の定置網には入っても上陸はしないという。環境問題でいま海に捨てられたプラスチックが大きな問題になり、ウミガメの鼻にストローが刺さった映像がニュースになった。しかし、地球温暖化がウミガメに決定的な影響をおよぼす可能性があると一野さんは見ている。それは産卵時に砂の温度が28度より高いとメス、低いとオスになるからだ。
「問題は複雑で、いろんな可能性があることを、ウミガメを通じて知って欲しいと思います」
という一野さん。休みの日に遊びに行くとしたら、津や四日市ではなく名古屋、和歌山よりは大阪なのだそうだ。
文・写真/増田 幸弘(編集者)