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東海エリア探訪記

2018.10.12

特産ヒノキで楽器づくり

「ネコカホン」を手にする越仮裕規さん(左)と、デザインを担当する亜紀さん

 カホンはペルー発祥の打楽器である。スペイン語で「箱」の意味があり、四角い箱のうえにまたいで演奏する。もともとは箪笥の引き出しをその場のノリで外して叩いたのが発祥なのだそうだ。低い音から高い音まで多彩な音が一つのカホンで出せる。それでいてドラムなどとちがい、持ち運びがしやすい。初心者でも気軽に楽しめるので人気を集めた。

 大紀町はそのほとんどが山のなかにあるが、わずかながらも紀伊半島のリアス式海岸で海に接する。越仮カホンの工房はカツオやブリの水揚げで知られる錦漁港からほど近いところにある。

「漁師気質といいますか、海沿いは山のほうとは考え方がちがい、人と人とのつながりがあまりありません。いいか悪いかは別にしてですが」

 と越仮裕規さんは生まれ育った街を評する。地元の高校で土木を学んだあと、大阪で公務員として働いた。30歳で故郷に戻り、障害者施設に勤めはじめる。子どものころからものづくりが得意だったことから、作業所で木工の指導員をしたのである。

 子どもたちに教えながら、自分もいろいろ工夫してつくっているうち、木工を仕事にしたいとの思いが募っていく。それで1997年に起業し、雑貨や土産物を道の駅などで販売した。地元のヒノキ材にこだわった。道の駅が各地にできた時代で、販路がたくさんあった。はじめの10年くらいは順調だったものの、道の駅が当初の元気を失うことでだんだん商売がきつくなってくる。なんとかしなくてはと思っているとき、木工仲間やミュージシャンとの関係からカホンと出会う。

「カホンという楽器の存在は知ってはいたんですけど、自分なりに試作品をつくってみて、ミュージシャンのところにもっていってみたんです。そしたら気に入ってもらえたので、商品化しようと思いました」

カホン工房の様子。ヒノキの香りが染みついた木工所の趣がある。

 越仮さんのつくるカホンの特徴は、なんといってもヒノキでつくっていること。ベニヤ板のカホンが多いなか、楽器としての完成度を高めることにつながった。さらにミュージシャンからのフィードバックを活かして改良を重ね、カホンといえば「越仮」といわれるまでになる。2017年にブランド名を「KOSHIKARI」にしたのも自信の表れだ。

 職人気質で無骨な越仮さんを支えるのが、妻でデザイナーの亜紀さん。「ねこカホン」など思いもかけないアイデアが活きる。遊びのつもりでネコの肉球をサウンドホールのデザインにしたら、音域がぐんと広がり、音がよくなった。音を変えるレバーは猫の手にした。「ちびねこ」はショルダーバッグ感覚のカホンで、実際、小物入れにもなる。モティーフは工房で飼う猫たちだ。

「最近、田舎でも心を病む人が少なくなく、音楽で癒しませんかと呼びかける集まりがこの地域でもよくひらかれています。体験イベントでカホン教室もやるんですよ」

 越仮さんら音楽仲間が協力して手弁当で企画している。行政がやると盛り上がりにかけるけど、とちくり。公務員として働いていた自分の経験からくる意見だろう。音楽を媒介に人がつながれば自然で無理がない。地元にこだわることで生まれた音色が関係性の縁となった。