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ナゴヤ愛
2021.08.21
第3回 400年前から来たTikToker
空前の歴史ブームです。週末には日本中の城に歴女たちが押し寄せます。そのブームに一役買っているのが戦国武将などに扮して観光PRを行う武将隊です。その先駆けの「名古屋おもてなし武将隊」は2021年で活動12周年。
武将6名+陣笠隊4名の10名で行う華麗な演武やコミカルな寸劇は高いエンタメ性で見る者を魅了します。
昨年からのコロナ禍で、武将隊の活動はどのように変わったのでしょうか?緊急事態宣言中で、武将隊が「おもてなし」を行う名古屋城は土日閉園という状況の中、武将隊の「顔」ともいえる織田信長公と陣笠隊最長の10年目を迎えた踊舞さんにお話を伺いました。
コロナ禍で大変だったことは?という問いには「我らの仕事は名古屋城を訪れる者に『おもてなし』をすることじゃが、活動が『全否定』されたのがこのコロナ禍であった」と信長公。
お客さまを握手や会話でもてなすことが難しくなり、移動もできず、イベントが軒並み中止に追い込まれたことで、どう活動すべきか模索する日々が続きました。
そんな中で活路を見出したのがSNSの活用です。Twitterから始まりYouTubeの動画を経て、ついにはTikTokまで開始。
彼らはそもそも、ナゴヤを世界一の観光都市にすべく、400年前より蘇った人々。スマホは「カラクリ」、写真は「写し絵」と言葉はクラシカルです。しかし信長公が「わしは400年前から新しもの好きだったのじゃ」とおっしゃる通り、感覚までクラシックではありません。信長公が現代に生まれていたら、誰よりも早くスマホを使いこなしていたことでしょう。私は拙著『ナゴヤ愛』に葛飾北斎は江戸のYouTuberだと書きましたが、気の短い(失礼)信長公はまさに戦国のTikToker。
信長公曰く、名古屋城が武将隊の店舗だとすれば、TikTokは訪問販売のようなもの。武将隊を知らない人の玄関を叩いて扉を開けてもらうイメージだそう。
今までは名古屋城やイベントに来てくれる人にしか伝えられなかったナゴヤの魅力を、SNSなら全国、いえ全世界に発信できるのです。考えようによっては、コロナ禍によって大きな可能性に気づかされたと言えるかもしれません。
陣笠隊の踊舞さんは華麗に舞う大道芸人。人を楽しませたいという芸人魂から、TikTokも1日3回せっせと投稿。その結果フォロワー数4万人を超え、今では踊舞さんはすっかり「てっくとっく(TikTok) の人」として有名に。TikTokで踊舞さんを知り、名古屋城に来てくれる人も増えているとのこと。
コロナが収まったら何をしたいですか?との問いには、名古屋城で10人全員そろって演武がしたいと即答。以前は月に一度は全員演武を行っていたのがこの1年以上、まったくできていないのだそう。
今後力を入れたいことは「名古屋城の魅力発信」です。復元工事が進む名古屋城では、木造の本丸御殿が数年前に完成。ヒノキは経年変化して色が濃くなります。明るい色の木肌を見られるのはほんの数年、城の長い歴史の中で創建時の武士階級と現代に生きる我々だけなのです。これはまたとない貴重な機会であると信長公。なるほど、面白い視点です。確かにその通り!今ならまだ間に合います、名古屋城へ急げ!です。
信長公は「街道の交わる笹島に城を建てたい」、踊舞さんは「10年記念の踊舞カルタをつくりたい」など、野望は尽きません。コロナ禍を逆手に武将隊の快進撃は続きます。
(写真撮影:宮田雄平)