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2023.04.30

視点により解釈が分かれる雇用関連指標
改善する雇用情勢と深刻化する人手不足

【東海経済は足踏み状態だが、雇用は改善】

 半導体調達難による自動車の生産停滞、原材料価格の高騰などにより、東海経済はこのところ足踏み状態となっている。これまで東海は自動車産業のけん引により、他地域に比べて経済状況が良好な地域と言えたが、足下では、逆に自動車産業が足を引っ張るような状況だ。

 そのような中で、雇用状況に関しては改善が続いており、生活の根幹である職の確保という面では、それほど心配ない状況と言える。日本銀行が1月に発表した地域経済報告(さくらレポート)でも、東海地区は、景気全般では「横ばいで推移している」とされたものの、雇用・賃金に関しては「緩やかに改善している」と、上向きの状態が続いていると判断されている。

 東名阪の3大都市圏の中核である東京都、愛知県、大阪府について、有効求人倍率(2023年1月の就業地ベース、季節調整値)の動きを見ても、愛知県で1.39倍と、東京都の1.17倍、大阪府の1.12倍に比べて高水準となっている。失業率(2022年10-12月期、季節調整値)を見ても、東海地区は1.9%と完全雇用と言えるような水準であり、南関東の2.5%、近畿の2.9%に比べて低い状態だ。

【喜んでばかりはいられない高い求人倍率】

 雇用関連の経済指標を見ると、愛知県の雇用情勢は他地域に比べ良好であるように見えるが、問題がないわけではない。コロナ前の2019年の平均を基準として、求人数の推移を見てみると、愛知県は、東京都、大阪府を下回っており、求人が他地域よりも伸びているわけではない。同様に、求職者数の動きを見ると、愛知県は、東京都、大阪府に比べて低めの水準で推移している。愛知県の求人倍率が高水準であるのは、分母である求職者数が少ないことが影響していると言える。

 先に触れたように愛知県の失業率は他地域に比べて低水準である。「住民基本台帳移動報告」から人口移動の状況を見ても、東京都、大阪府で人口流入が続いている一方、愛知県では人口流出が続いている。これらが、愛知県における求職者数の水準の低さにつながっていると考えられる。

 求人倍率が高いということは、職を探す人にとっては良いことであるが、視点を変えて企業側から見ると、人手不足で困った状態とも言える。失業率が低く、求職者数が少ない中で、求人倍率が高いというのは、むしろ人手不足が深刻で困った事態との解釈も可能であろう。

塚田 裕昭

つかだ ひろあき

三菱UFJリサーチ&コンサルティング

調査開発本部 調査部

主任研究員