MARKETING MAGAZINE
マーケティングマガジン
ナゴヤ愛
2022.07.08
第8回
延藤先生が遺した「たからもの」
名古屋のビジネス街・中区錦二丁目エリアが大きく生まれ変わろうとしています。再開発施設「オリマチ錦」に2022年6月誕生する「喫茶/スペース七番(以下、七番)」はその象徴的存在。2008年より同地区のまちづくりに取り組んできた、錦二丁目エリアマネジメント(株)代表の名畑恵さんにお話を伺いました。
建築家で「まち育ての語り部」延藤安弘さんがつくった「まちの縁側育くみ隊」の代表も務める名畑さん。
「七番」は、2018年に急逝した延藤先生の志を引き継いだものです。延藤先生のまちづくり構想の軸にあるのは「会所」。名古屋の都市計画を進めた徳川家康公は、太平の世を見越して整備した碁盤の目のような街路の区画ごとに寺社仏閣=会所を配置しました。会所は、普段は祈りの場、集会の場として、いざというときには隠れられる場所として住民たちに活用されたのです。
江戸や大阪にも会所はありましたが、ほとんど残っていません。唯一名古屋に残っているのは、寺社仏閣だったからとも。「これはほかの地域にはない名古屋の特長で『たからもの』なんだよ」と延藤先生。会所をまちに復活させ、まちの人が気軽に集まれる場所をつくりたい。それが延藤先生の願いでした。
延藤先生とこの街を愛する人々の想いが結実した「七番」は30階建ての高層棟の1-2階に開業。1階の喫茶七番とその前の広場が、この街の拠点=会所となります。
喫茶七番の店主は、拙著『ナゴヤ愛』にも登場し、名古屋の喫茶文化をこよなく愛する阿部充朗さん。このインタビュー中、オープン前の七番で阿部さんと偶然遭遇。(街で知人とバッタリ会う率が高いのも名古屋の特徴です)
喫茶七番はピンクの内装が印象的。阿部さんと一緒に店内をのぞくと、なんと断熱材がピンク!「できるだけ低コストに抑えるために、この色を活かすことにしたんです」やさしいピンクは老若男女が集う場にピッタリですが、まさかそんな理由があったとは。
高層棟と通路で結ばれた低層棟には、個人でも借りやすい小さな店舗物件が4件。住民や近隣に勤務する人々が気軽に立ち寄れるお店が入居し、ここにも賑わいが生まれます。
2階「スペース七番」には、子ども連れが自由に利用できるキッズルームも併設。延藤先生の蔵書の一部だという絵本も並びます。
二丁目7番街区の構想とともに名畑さんたちが取り組んできたのが、歩道にベンチを設置すること。名古屋の街の大きな特色である道路が広いことを、最大限に活かしています。かなり大きく凝ったつくりのベンチを置いても、まだまだ余裕で歩けるのは、さすが名古屋!ベンチの座面の高さや向きがバラバラなのは、知らない人同士が同時に利用することを想定しています。
足元には、自然を感じられるよう、地域の野に咲く花を選んで植えています。
人工的なものであふれる都心では、ともすれば「まちは人のためのもの」という視点が抜け落ちてしまいがち。それを忘れないためにつくられたのが、新しく錦二丁目エリアに生まれた「会所」なのです。
(写真撮影:宮田雄平)