MARKETING MAGAZINE

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INTERVIEW

2018.06.19

時代のニーズをとらえてベストセラーに

ー 本が売れない時代などといわれますが、児童文学者である吉野源三郎さん原作の「漫画 君たちはどう生きるか」の売り上げが200万部、原作の新装本も50万部を突破する大ヒットとなりました。そもそもこの原作をあらためて出版しようと考えた理由は何だったのでしょう。

鉃尾 まずは私自身がこの本を好きだったからという点が大きいですね。私がこの本を初めて読んだのは20歳のときです。父に勧められた本だったのですが、実際にページをめくってみると心に響く内容で、以来、自分にとっての特別な本になりました。

 マガジンハウスは出版社ですから、社内で本の話をする機会は多いのですが、同僚、それも比較的若い世代のなかに、この本に感銘を受けている人が多いことがわかってきて、それなら、より幅広い世代の方に向けて、あらためて世に出す意義があるのではないかと考えました。

ー どのような経緯で漫画として出版することになったのでしょう。

鉃尾 より幅広い世代の方に手に取っていただきたいというのはもちろんありましたが、出版するにあたっては、まずターゲットのメインを50~60代に設定しました。

 この本の原作が最初に出版されたのは1937年で、戦後の早い時期には名作という評価を得ているので、50歳以上の世代なら知っている人が多いですし、1960~70年代の漫画ブームをリアルタイムに経験した世代でもあるので、漫画というかたちで出したら、興味をもってもらえるのではないかと考えたんです。漫画にしたことで、結果的に、50~60代以外の世代、若い読者にも浸透しやすい面はあったのかなと思います。

ー 漫画化ではどのような点に苦労されましたか。

鉃尾 原作と漫画版とは少し設定を変えていますが、漫画家の羽賀翔一さんが時間をかけていろいろと工夫をしてくれました。マガジンハウスは漫画のノウハウがなく、漫画家さんのつてもなかったのですが、編集関係の知人から羽賀さんを紹介していただけたのは本当にラッキーだったと思います。

ー プロモーションはどのように展開されましたか。

鉃尾 メインターゲットである50~60代のお客様が多い丸善日本橋店で先行発売を行いました。店長さんも内容に納得していただき、来店客の目につきやすい売り場を提供していただけたこともあって、この先行発売でかなりの手応えをつかむことができました。丸善さんで売れたということで、他の書店さんでも好意的に扱っていただきました。名古屋の書店でも羽賀翔一さんのサイン会を開催し、大変好評でした。

ー 中日新聞で新聞広告もご出稿していただいていますが、効果はいかがでしたか。

鉃尾 この本は新聞との相性がかなり良く、テレビなどで取り上げられたタイミングで広告を打つと、さらに売り上げが上がりました。発売から約9カ月を経ても、その傾向は変わっていません。もともとターゲットにしていた層が新聞に親和性が高いというのも理由のひとつではないかと分析しています。


ー 糸井重里さんがTwitterで紹介したり、宮崎駿監督が同名のアニメ作品を制作すると発表したり、追い風もありましたね。宮崎監督の新作はこれが原作というわけでは……。

鉃尾 ないんです。ただ、インタビューなどを読ませていただくと、宮崎監督ご自身が吉野源三郎の原作をお好きだとのことで、インスパイアされたものになるようですね。

 また、教育現場で学校の先生が生徒に読ませるとか、各ご家庭で親が子どもに読ませるとか、自然発生的な世代を超えた広がりがあったのも嬉しい驚きでした。我々が意図したプロモーションではなかったのですが、より多くの方が手に取っていただける機会にはなったのでありがたいと思っています。

ー 追い風があったとはいえ、これだけ受け入れられたということは、やはり社会のニーズに合致したからという面はあったと思います。そのあたり、ご自身ではどのように分析されていますか。

鉃尾 現代が「不安の時代」だから、というのはあるかなと思います。海外ではテロや国際紛争の種は尽きませんし、日本国内に目を向けても、なかなか景気の良さが実感できなかったり、少子高齢化が進んだり……。少し前には働き方を指南する本が売れましたが、いまはその根幹である生き方を模索するような内容が受け入れられる傾向にあります。こういう時代には、ストレートでダイレクトなメッセージのほうが読者に届くのではないでしょうか。

 考えてみれば、原作が世に出た1937年は日本が太平洋戦争に向かっている真っただ中ですから、どこか共通する時代の空気のようなものはあるのかもしれませんね。

ー 今後の展開についてはなにかお考えですか。

鉃尾 いろんな方とお話をするなかで、まだこの本の存在をご存じない方、これまで出会う機会のなかった方もいらっしゃると思っています。ここ最近はAmazonの総合ランキングで10~20位前後をキープしていますが、新聞広告を打ったら、翌日1位に返り咲いたんですね。6月にはオリコンとAmazonの2018年上半期売上ランキングで1位をとりました。まだまだ潜在ニーズは掘り起こせるポテンシャルを持った本だと思うので、これまでとは違うプロモーションのチャンネルも検討してみたいですね。

ー プロモーションに関してもぜひまた機会があればご協力させていただければと思います。本日はありがとうございました。