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ナゴヤ愛

2023.02.28

第12回 不登校だって、何も困らない

  2022年8月に出版されるなり話題となった、ある本の中に登場する人々——宮本亞門さん、サヘル・ローズさん、内田樹さん、キンタロー。さんに共通する事とは何でしょうか?意外にも、全員が「不登校」の経験者。

 この本『マンガで読む 学校に行きたくない君へ』を描いたのは、自身も不登校経験のある漫画家・棚園正一さんです。

▲漫画空間のオーナー・内藤さんと一緒に

 小・中学時代を不登校で過ごした棚園さん。中1のときに、不登校児の支援者によって、地元・清須市に住む漫画家・鳥山明さんと会うことができました。自作の絵を見てもらい「不登校でも漫画家になれますか?」と質問。当時の棚園さんにとっては「生きるか死ぬか」という程の大事な問いでした。鳥山先生の「なれると思うよ。不登校で困るのは、学園漫画を描くときくらいかな」という答えで、背中がすうっと軽くなったといいます。

 そこから本気で漫画家を目指し、14歳で漫画新人賞の最終選考に入り、担当編集がつきました。「スゴイ!」と思わず叫ぶ筆者。「全然スゴくないんですよ」棚園さんいわく、担当がつくのと連載できるのとでは、天と地ほどの差があるのだとか。

 その後、大きな賞に2度入賞し、読み切りは掲載されても、連載は遠いまま。1年かけて描いた原稿が何度もボツになったり、イラストの仕事をした相手からお金をもらい損ねたりと、なかなかうまく行きませんでした。

 棚園さんが初めて連載を持ったのは32歳のとき。担当編集がついて18年後のことでした。

▲担当編集から連載までこんなに距離が?

 そのきっかけが、この日お話を伺った大須(名古屋市)の漫画空間さん。全国的にも珍しい「漫画を描くための空間」です。当時、同店を舞台に40分間のテレビ番組の制作が決定。番組は同店の常連である棚園さん視点で作られ、不登校についても話しました。番組を見た担当編集者から「不登校をテーマに漫画を描いては」と提案され『学校へ行けない僕と9人の先生』の連載を開始します。

▲今も週に何日かは、ここで漫画を描くという

 連載当初は「不登校の漫画なんて読まれるのだろうか」と懐疑的だったそうです。予想に反して多くの反響があり、単行本化、のちにフランスでも出版。さらに数年後に話題となり大量重版が決まり、続編『学校へ行けなかった僕と9人の友だち』も発売。今回の本は、棚園さんの不登校漫画3冊目です。「この本の構想は、続編が出た後に考えていたけど、別の出版社では企画が通らなかったんです。ポプラ社から、僕の構想と全く同じ内容の話が来て驚きました」

 不登校漫画以外にも、地元名古屋や「病院訪問教育」がテーマの漫画を出版。現在は漫画家だけにとどまらず、不登校に関する講演を月に数回行い、専門学校の講師や児童文学賞の審査員など、活動の幅を広げています。

▲悩んだ過去も無駄じゃない

 「今まで多くの人に支えられてここまで来たので、少しでも世の中に恩返ししたい。恩返しできる場所があるのが、ありがたい」と棚園さん。

 今では「学校に行けるほうがいいには違いないけれど、行けなかったことで、困ったことは何もない」と言い切ります。 「学園漫画も問題なく描けますよ」棚園さんの悩んだ過去と現在は、今を生きる不登校児へのエールなのです。

(写真撮影:宮田雄平)