MARKETING MAGAZINE

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INTERVIEW

2019.08.08

『食は聖職』。だから「楽しくなければ広告じゃない」

ー「第10回中日新聞社広告大賞」で、貴社が出稿された大坂なおみ選手の全米オープン優勝広告が最優秀賞に輝きました。おめでとうございます。SNSでも大きな反響を呼びましたが、率直な感想はいかがですか。

米山 賞をいただいたり、SNSで話題になったりするというのは、広告を見た方に楽しんでいただき、「他の人にも教えたい!」と思っていただけたということだと思います。弊社では、「楽しくなければ広告じゃない」という文化があるので、これは素直に嬉しいですね。

中日新聞 2018年9月12日朝刊 大坂なおみ選手の魅力が伝わるキャッチコピーで埋め尽くされた印象的なデザインで第10回中日新聞社広告大賞の最優秀賞を受賞。隅々まで読みたくなるとSNSなどでも大きな話題に

ー広告が楽しいものであるべきだと考えるのはなぜなのでしょう。

米山 食べることの楽しさを伝えたいと思うからです。弊社には、人の口に入るもの、人の体をつくるものを提供することの意義を示した『食は聖職』という言葉があります。安全安心や健康に留意するのはもちろん、食品業界全体で品質を高めていこうという意識も大切にしています。その延長上に、食べることの楽しさがあり、それを伝えるためには広告も楽しいものであるべきだというのが、弊社の広告の基本的なスタンスなんです。

ー『食は聖職』という考え方が、「楽しくなければ広告じゃない」という考えにつながっているのですね。では、今回の大坂なおみ選手の広告について教えてください。まず、大坂選手に限らず、貴社がトップアスリートを応援し、パートナーとなる意図を教えてください。

米山 弊社の製品は、利便性がクローズアップされることが多いのですが、創業者の安藤百福は、もともと「食とスポーツは健康を支える両輪である」という考えを持っていました。そうしたなかで、「安藤スポーツ・食文化振興財団」を設立するなど、スポーツ振興には力を入れています。加えて、日清食品自体が経営的にも世界展開を図っており、世界に挑戦するアスリートを自分たちの姿と重ね合わせて応援したいという意向があるんです。

インスタント食品の利便性ばかりが注目されがちだが、朝の連続テレビ小説『まんぷく』(NHK)でも描かれていたように、食の安全性や健康への寄与が起業精神の原点

ー 成功したから広告に出てもらうのではなく、挑戦する姿に共感して応援するということですね。

米山 その通りです。大坂選手も世界ランクが100位以下だった頃から一貫してサポートしています。

ー なるほど、だからこそ今回のような熱い気持ちが伝わる広告を制作できるのですね。デザイナーの李さんにも同席していただいているので、この広告に込めた思いやデザイン意図などをお話しいただければと思います。

李 大坂選手の写真とタイポグラフィーを組み合わせるというアイデアはすぐに決まりました。アスリートのストイックさを象徴的に表現するため、大坂選手の写真はモノクロとしました。文字の赤い色は、日清食品のコーポレートカラーでもありますが、大坂選手を応援する人々の感動や熱量も表現しています。文字自体は、強さや躍動感を表現するために直線的なデザインを採用しました。

ー 背景の文字は印象的なフレーズが多く、隅々まで読みたくなるような広告に仕上がっていますが、言葉はどのようにセレクトしたのでしょう。

李 大坂選手本人の発言はもちろん入っていますが、候補はそれだけではありません。実は、全米オープンの決勝戦当日、早朝から社員が集まって社内で観戦したのですが、そのときに社員が口にした応援フレーズなどもリスト化し、そこから彼女の魅力が伝わる言葉を厳選していきました。メインキャッチの「世界沸騰」は、熱い盛り上がりであると同時に、お湯を注ぐカップヌードルのイメージでもあり、その両方を表現できるフレーズだったと思います。

ー 思わず発せられた応援の言葉だから、こんなに説得力があるんですね。李さんは中国のご出身だそうですが、日本語のタイポグラフィーでデザインする苦労はありませんでしたか?

李 日本語は漢字以外に平仮名や片仮名があるので、むしろデザインの面白さを感じます。さらに今回の広告では、英語や数字も総動員したので、それらを組み合わせて、音楽のリズムをつくるような気持ちで、楽しみながらレイアウトを組んでいきました。

ー 今回に限らず貴社の広告は大きな話題になることが少なくありません。いわゆる“バズる”ために心掛けていることがあれば教えてください。

米山 「楽しくなければ広告じゃない」という考えともつながるのですが、楽しいものって人に伝えたくなりますよね。人に伝えたくなるような広告づくりを常に心掛けているので、結果的にそれが話題性につながっている面はあると思います。

ー 最後に、新聞広告に対するご意見やご要望があれば教えてください。

米山 広告には出稿すべきタイミングというものがありますが、今回の大坂なおみ選手の広告は、まさに全米オープン優勝の直後、キャッチコピーのとおり「沸騰」した瞬間だからこそ世に出す意義のある広告でした。そういう意味では、毎日発行されているメディアである新聞ならではの効果があったと思います。新聞にはさまざまな制約はあると思いますが、工夫次第でまだまだ面白いことはできるのではないでしょうか。そういった模索を一緒にしていけたらと思います。

ー 嬉しいご提案をありがとうございます。ぜひご一緒させていただければと思います。本日はありがとうございました。

「大坂選手の広告はそれぞれのフレーズの文字数とスペースを考慮する必要がありました。細かい修正が入るたびに根気よく調整してくれた李くんには感謝です」と宣伝部部長の米山さん㊨