MARKETING MAGAZINE
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INTERVIEW
2019.06.11
多くの方に受け入れられる本を世に送り出すのが喜び
ー 御社から刊行された2冊の本が話題となっています。瀬尾まいこさん著の小説『そして、バトンは渡された』(以下、『バトン』)は、2019年本屋大賞を受賞して40万部を超えるヒット、昨年9月に亡くなった樹木希林さんの生前の言葉を集めた『一切なりゆき~樹木希林のことば~』(以下、『なりゆき』)は、平成最後のミリオンセラーとなりました。このヒットをどのようにご覧になっていますか。
鈴木 10万部のヒットも難しいなか、2冊がこれだけのヒットになったのは嬉しい限りです。まず、瀬尾まいこさんの『バトン』については、弊社の書籍では2度目の本屋大賞ですが、普段から読者と接している全国の書店員さんに選ばれるというのは格別な喜びがあります。瀬尾さんにとっても、作家冥利に尽きるのではないでしょうか。
ー 書店員さんの声にはどのようなものがありましたか。
鈴木 「読後に幸せな余韻を感じる」、「家族の在り方を考えさせられた」、「誰かに抱きしめられているような思いだった」といったコメントがありました。主人公の女子高生は、17歳にして何度も親が変わる経験をしているのですが、決して悲しい話ではなく、とても温かい気持ちになれる小説です。新聞などの広告では、「身近な人が愛おしくなる家族小説」というコピーを使用していますが、この作品を端的に表現していると自負しています。本屋大賞の授賞式では、カバーデザインをモチーフにした手作りのグッズやポップを書店員さんたちが数多く持ち寄ってくださって、みなさんに愛されている本なのだなと感じました。
「全国書店員が選んだいちばん!売りたい本」というキャッチフレーズで毎年実施されている本屋大賞の受賞を機に、売れ行きが一気に加速し、40万部を突破した。
ー 樹木希林さんの『なりゆき』は、どのような経緯で出版されたのでしょう。
鈴木 樹木さんといえば、女優としてオンリーワンの存在ですが、自著を出していらっしゃらないんですね。それで、本という形で言葉を残すことには意義があるのではないかという意見が社内で出て、雑誌のインタビューをはじめとするさまざまな発言を集め、樹木さんらしい心に響く言葉を厳選して書籍化することになりました。担当したのは、発言集スタイルの書籍経験が豊富なベテラン編集者で、内容には絶対の自信を持っています。
ー 樹木さんの言葉の魅力はどのあたりにあるとお考えでしょうか。
鈴木 私は実は、いまから30年ほど前に、樹木さんとじっくり話をさせていただいたことがあります。週刊文春の取材でエジプトに行ったときに、たまたま観光でいらしていた樹木さんと遭遇したんです。それ以前に仕事をお願いしたことがあった関係で面識があり、お時間をいただいたのですが、実際に話をしていて感じたのは、予定調和的なことは言わず、自分の頭で考え、自分の言葉で話されているということです。とても印象的でした。
ー ミリオンセラーになるほど受け入れられた要因についてはどのように分析されていますか。その際、新聞広告などのプロモーションの効果はいかがでしたか。
鈴木 12月刊行だったので、テレビの年末振り返り番組で取り上げていただいたのも大きな要因ですが、何より、私が樹木さんとお会いしたときに感じた言葉の力を、世間の多くの皆さんも感じていたからではないでしょうか。それと、先ほども触れたように、樹木さんには自著がなかったため、樹木さんをもっと知りたいと思う読者にとって、この『なりゆき』が受け皿になった面はあると思います。100万部を突破したのは、発売から3カ月強という異例の早さでしたが、新聞広告の効果は高かったと感じています。樹木さんに興味を持つ層と新聞の読者層はかなり重なっていたので、全都道府県の有力県紙で広告を打ちました。全国津々浦々までのローラー作戦です。広告を通じて、全国的に幅広い層の方が手に取ってくれたからこその100万部です。
新聞広告との相性が良かったため、全国の有力県紙でプロモーションを展開。表紙の穏やかに微笑む写真が好評だったことから、広告でもこの写真を大きく掲載した。
ー この2冊の今後の展望については、どのようにお考えですか。
鈴木 『バトン』の読者層は、主人公と同世代になると思っていたのですが、意外にも実際は40代以上が多かったんです。今後、映像化なども考えられますので、そういうきっかけで若い人にも浸透していけば、まだまだ伸びしろはあるかなと期待しています。『なりゆき』は、平成最後のミリオンセラーになりましたが、これからさらに多くの人の目に留まって、令和最初のミリオンセラーになるといいねと、半ば冗談ですが社内で話しています。今後、樹木さんご自身が企画された映画『エリカ38』や遺作となったドイツ映画『ゴンドラの唄』の公開が控えており、そこで興味を持った方が新たにこの本に出会ってくれたら嬉しいですね。書名どおり「一切なりゆき」を見守ります(笑)。
ー 最後に、新聞に期待することがあればお聞かせください。
鈴木 『なりゆき』がそうであったように、書籍の存在をどう周知させるかという点では、やはり新聞、とくに地方紙や県紙の存在というのは大きいと感じています。また、新聞と出版は、同じ活字メディアとして親和性が高く、読者層も重なっているケースは多いので、協力しながら共存していけたらと思います。
ー こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。
※『一切なりゆき』は5月末現在で累計発行部数120万部を突破しています。